キャンプの夜を快適に過ごすための必需品、寝袋(シュラフ)。
しかし、使っていくうちに汗や皮脂、湿気などで目に見えない汚れが蓄積していきます。
「洗い方がわからない」「素材を傷めそうで怖い」と、洗濯をためらっている方も多いのではないでしょうか。
汚れた寝袋を放置すると、保温力の低下やカビ、悪臭の原因となり、快適性が損なわれるだけでなく、寝袋自体の寿命を縮めてしまいます。
この記事では、寝袋の二大素材である「ダウン」と「化繊(化学繊維)」に焦点を当て、それぞれの特性に合わせた正しい洗濯方法、乾燥のコツ、そして次のシーズンまで性能を維持する保管方法まで、専門外の方にも分かりやすく徹底的に解説します。
洗濯前に知るべき大原則
寝袋の洗濯を始める前に、必ず確認すべきことが 2 点あります。
これを怠ると、取り返しのつかないダメージを与えてしまう可能性があります。
1. 洗濯表示(ケアタグ)の徹底解読

最も重要な情報は、寝袋の内側についている洗濯表示タグにすべて書かれています。
洗濯機が使えるか、手洗いが推奨か、乾燥機の使用は可能かなど、メーカーが推奨する取り扱い方法を必ず確認してください。
特に注意すべき記号を以下の表にまとめます。
| 記号カテゴリ | 記号(例) | 意味 | 寝袋における注意点 |
| 家庭洗濯 | ![]() | 洗濯機で洗える(液温上限 40℃) | この記号があっても、縦型洗濯機は避け、ドラム式を推奨します。 |
![]() | 手洗い可(液温上限 40℃) | ダウン寝袋の多くはこの表示です。浴槽などでの押し洗いが基本です。 | |
![]() | 家庭での洗濯禁止 | この場合は、専門のクリーニング店に相談してください。 | |
| 乾燥 | ![]() | タンブル乾燥(乾燥機)OK(低温) | ダウン寝袋の場合、この記号があれば乾燥機を使えます。 |
![]() | タンブル乾燥(乾燥機)禁止 | 化繊寝袋の多くはこの表示です。熱で繊維が溶けるため厳守です。 | |
![]() | 日陰での吊り干し推奨 | 素材を傷めないための基本的な干し方です。 | |
| 漂白 | ![]() | 塩素系・酸素系漂白剤の使用禁止 | 寝袋の洗濯で漂白剤は絶対に使用しないでください。 |
2. ファスナーをすべて閉じる
洗濯中に生地が引っかかったり、ファスナー自体が破損したりするのを防ぐためです。
すべてのファスナーやドローコードを完全に閉じた(締めた)状態にしてから洗濯を開始してください。
素材の違いが洗濯方法を決める
寝袋の中綿は、大きく「ダウン(羽毛)」と「化繊(化学繊維)」に分けられます。
この 2 つは特性が全く異なるため、洗濯方法も変える必要があります。
ダウン(羽毛)の特徴

鳥の胸元の柔らかい羽毛(ダウンボール)を使用した素材です。
空気を多量に含むため、非常に軽量でありながら高い保温力を発揮します。
しかし、水に濡れるとダウンボール同士がくっつき、膨らみ(ロフト)が失われ、保温力が急激に低下する弱点があります。
また、ダウンには天然の油分が含まれており、これが保温性や弾力性を保っています。
通常の洗濯洗剤はこの油分まで洗い流してしまうため、専用の洗剤が必須です。
化繊(化学繊維)の特徴
ポリエステルなどの化学繊維を綿状に加工した素材です。
ダウンに比べて安価で、水に濡れても保温力の低下が少ないのが最大の強みです。
繊維自体が水分を吸いにくいため、乾きも比較的早いです。
ただし、ダウンと同じ保温力を求めると、より多くの中綿が必要となり、重くかさばる傾向があります。
メンテナンスは非常に簡単で、一般的な中性洗剤で洗えるモデルが多いです。
素材別特性の比較表
| 比較項目 | ダウン(羽毛) | 化繊(化学繊維) |
| 保温力 | ◎(非常に高い) | ◯(高い) |
| 軽量性 | ◎(非常に軽い) | △(重め) |
| コンパクト性 | ◎(小さくなる) | △(かさばる) |
| 水濡れ耐性 | ×(濡れると保温力ゼロ) | ◯(濡れても保温力を維持) |
| 乾燥速度 | ×(非常に乾きにくい) | ◯(比較的早い) |
| メンテナンス | △(デリケート・専用洗剤必須) | ◎(簡単・中性洗剤OK) |
| 価格 | 高価 | 安価 |
ダウン寝袋の洗い方:手洗いと洗濯機
ダウン寝袋の洗濯は、ロフト(膨らみ)をいかに維持するかが鍵です。
使用する洗剤
必ず「ダウン専用洗剤」を使用してください [1]。
クリーナー 汚れ落とし ダウン 洗剤 モンベル ダウンクリーナー 300ml ダウンジャケット ダウンベスト メンテナンス クリーニング アウトドア 価格:2980円 |
これらはダウンの天然油分を落とさずに、皮脂や汗などの汚れだけを分解するよう設計されています。
一般的な中性洗剤(おしゃれ着洗い用など)も使えなくはありませんが、油分を落としすぎてしまい、保温力の低下につながる可能性があります。
方法(1)手洗い(浴槽)
最も安全で推奨される方法が、浴槽を使った「押し洗い」です。
生地やダウンへのダメージを最小限に抑えられます。
| 手順 | 作業内容 | 注意点・コツ |
| 1. 準備 | 浴槽に 30〜40℃ のぬるま湯を溜めます(寝袋が浸かる程度)。 | 熱湯は絶対に使用しないでください。ダウンを傷めます。 |
| 2. 洗剤投入 | ダウン専用洗剤を規定量入れ、よくかき混ぜます。 | 洗剤の量は製品の指示に従ってください。入れすぎは禁物です。 |
| 3. 浸漬 | 寝袋のファスナーを閉め、空気を抜きながらゆっくりと湯に沈めます。 | 無理に押し込むと生地が傷みます。自然に水が染み込むのを待ちます。 |
| 4. 洗い | 寝袋全体を優しく「押し洗い」します。足で踏んでも構いません。 | **絶対に「もみ洗い」や「こすり洗い」はしないでください。**中のダウンがちぎれてしまいます。 |
| 5. すすぎ | 浴槽の栓を抜き、濁った水を排水します。 | 寝袋を押して水を抜き、再度ぬるま湯を溜めます。 |
| 6. すすぎ(反復) | 水が透明になり、泡が出なくなるまで「4. 洗い」と「5. すすぎ」を 3〜4 回繰り返します。 | 洗剤が残るとダウンが固まる原因になります。徹底的にすすぎます。 |
| 7. 脱水 | 浴槽の水を抜き、寝袋を上から押して水分を抜きます。 | 絶対に雑巾のように絞らないでください。 |
| 8. 脱水(仕上げ) | 乾いたバスタオル数枚で寝袋を挟み、上から押して水分を吸い取ります。 | 水を含んだダウン寝袋は非常に重いため、持ち上げる際は慎重に。 |
方法(2)洗濯機(ドラム式限定)
洗濯表示で「洗濯機可」となっている場合のみ、ドラム式洗濯機が使用できます。
| 注意点 | 理由・解説 |
| 縦型は絶対 NG | 縦型洗濯機は、水に浮きやすい寝袋をうまく攪拌できず、洗えません。また、強い水流が生地を傷めたり、中綿を偏らせたりする原因になります [2]。 |
| 大型ネット使用 | 必ず大型の洗濯ネットに入れてください。生地の保護と、洗濯槽への張り付きを防ぎます。 |
| コース選択 | 「手洗いコース」「おしゃれ着コース」「ドライコース」など、最も水流の弱いコースを選びます。 |
| 洗剤 | ダウン専用洗剤を使用します。自動投入ではなく、指定の場所に入れてください。 |
| 脱水時間 | 脱水は「1 分以内」の最短時間に設定するか、脱水機能自体を使わないことを推奨します。長時間の脱水はダウンの偏りや損傷につながります。 |
化繊寝袋の洗い方:手洗いと洗濯機
化繊寝袋はダウンに比べてデリケートさはありませんが、中綿が偏らないよう優しく扱うことが基本です。
使用する洗剤
「中性洗剤」を使用します。おしゃれ着洗い用の洗剤で問題ありません。
漂白剤や柔軟剤入りの洗剤は、繊維のコーティングを傷めたり、撥水性を損ねたりする可能性があるため避けてください。
方法(1)手洗い(浴槽)
基本的な手順はダウンと同じ「押し洗い」です。
| 手順 | 作業内容 | 注意点・コツ |
| 1. 準備 | 浴槽に 30〜40℃ のぬるま湯を溜めます。 | |
| 2. 洗剤投入 | 中性洗剤を規定量入れ、よくかき混ぜます。 | |
| 3. 浸漬 | ファスナーを閉めた寝袋を沈めます。 | 化繊はダウンより水が染み込みやすいです。 |
| 4. 洗い | 優しく「押し洗い」または「踏み洗い」をします。 | 化繊はダウンより丈夫ですが、もみ洗いは避けましょう。 |
| 5. すすぎ | 濁った水を排水し、新しい湯を溜めて押し洗いですすぎます。 | |
| 6. すすぎ(反復) | 泡が出なくなるまで 2〜3 回繰り返します。 | |
| 7. 脱水 | 浴槽の水を抜き、上から押して水分を抜きます。 | ある程度絞っても問題ない場合が多いですが、洗濯表示に従ってください。 |
方法(2)洗濯機(ドラム式・縦型)
化繊は洗濯機で洗えるモデルが多いのが特徴です。
洗濯表示を確認し、「洗濯機可」であれば活用しましょう。
| 手順・設定 | 作業内容 | 注意点・コツ |
| 1. 準備 | ファスナーをすべて閉じ、大型の洗濯ネットに入れます。 | |
| 2. 洗濯機投入 | ドラム式が最適ですが、縦型でも「手洗いコース」など弱水流なら可能な場合があります。 | 寝袋が水に浮いてしまう場合は、手洗いに切り替えてください。 |
| 3. 洗剤 | 中性洗剤を使用します。 | |
| 4. コース選択 | 「手洗いコース」「おしゃれ着コース」「毛布コース」などを選びます。 | 通常の標準コースは水流が強すぎるため避けてください。 |
| 5. 脱水 | 短時間(1〜3 分程度)の脱水をかけます。 | 長時間の脱水は中綿の偏りを引き起こします。 |
洗濯方法の比較:ダウン vs 化繊
ここまでの内容を、素材別に比較します。
| 項目 | ダウン(羽毛) | 化繊(化学繊維) |
| 推奨方法 | 手洗い(浴槽) | 洗濯機(弱水流) または 手洗い |
| 使用洗剤 | ダウン専用洗剤(必須) | 中性洗剤(おしゃれ着洗い用) |
| 洗い方 | 押し洗い(もみ洗い NG) | 押し洗い |
| 洗濯機 | ドラム式のみ可(縦型 NG) | ドラム式推奨(縦型もコース次第で可) |
| 脱水 | 非推奨(または 1 分以内) | 短時間(1〜3 分) |
【最重要】寝袋の乾燥テクニック
洗濯以上に寝袋の性能を左右するのが「乾燥」です。
特にダウン寝袋は、乾燥が不十分だと最悪の場合カビが生え、二度と使えなくなることもあります。
素材別(1)ダウン寝袋の乾燥
ダウンは「ロフト(膨らみ)」をいかに回復させるかが勝負です。
最も確実で推奨される方法は、コインランドリーの大型ガス乾燥機を使うことです [3]。
家庭用乾燥機よりパワーがあり、短時間で完全に乾かすことができます。
コインランドリーでの乾燥手順(ダウン)
| 手順 | 作業内容 | 注意点・コツ |
| 1. 持ち込み | 脱水後の寝袋をコインランドリーに持ち込みます。 | バスタオルに包むか、大きなビニール袋に入れて運ぶと水が垂れません。 |
| 2. 機械の選択 | 大型のガス乾燥機を選びます。 | 小さい乾燥機では寝袋が回転するスペースがなく、偏りの原因になります。 |
| 3. 温度設定 | **「低温」**に設定します。(約 50〜60℃) | 高温設定は、生地やダウンを傷めるため絶対に避けてください。 |
| 4. テニスボール投入 | きれいなテニスボールを 3〜5 個、寝袋と一緒に入れます [4]。 | これが最大のコツです。乾燥中にボールが寝袋を叩き、固まったダウンをほぐしてロフトを回復させます。 |
| 5. 乾燥(1回目) | まずは 40〜60 分程度、乾燥させます。 | |
| 6. 確認・ほぐし | 一度取り出し、寝袋を振ったり叩いたりして中綿をほぐします。 | 特に端の部分にダウンが固まっていないか確認します。 |
| 7. 乾燥(2回目〜) | 再度「低温」で 20〜30 分ずつ追加乾燥します。 | |
| 8. 最終確認 | 中綿の固まりがなくなり、完全に乾くまで「6. 確認」と「7. 乾燥」を繰り返します。 | 表面は乾いていても、中綿が湿っていることが多いです。合計 90〜120 分かかることもあります。 |
自宅での乾燥(ダウン)
家庭用乾燥機(ドラム式)でも可能ですが、低温設定でテニスボールを入れ、根気よく行う必要があります。
自然乾燥は非常に難しく、推奨されません。
どうしても自然乾燥する場合は、数日から 1 週間かけて、風通しの良い日陰で干します。
| 自然乾燥(ダウン)の注意点 |
– 2 本の物干し竿を使って、寝袋を M 字型になるように渡し、風通しを良くします。![]() |
| – 1〜2 時間おきに寝袋を裏返したり、振ったりして、固まったダウンを手で丁寧にほぐします。 |
| – 完全に乾くまで数日〜1 週間かかります。この間に雑菌が繁殖するリスクがあります。 |
| – 直射日光は生地を劣化させるため、必ず「日陰干し」を守ってください。 |
素材別(2)化繊寝袋の乾燥
化繊は熱に弱いため、乾燥機の使用は原則 NG です [5]。
洗濯表示で「タンブル乾燥禁止」となっている場合がほとんどです。
基本は「自然乾燥」となります。
寝袋の性能を維持する長期保管術
洗濯と乾燥が終わったら、次のシーズンまで正しく保管します。
ここでの保管方法が、寝袋の寿命を大きく左右します。
やってはいけない保管方法
キャンプに持って行くときに使う「スタッフサック(圧縮袋)」に入れたまま保管することです。
長期間圧縮された状態が続くと、ダウンや化繊のロフト(膨らみ)が回復しなくなり、保温力が著しく低下します。
正しい長期保管の方法

基本は「圧縮せず、ふんわりと保管する」ことです。
| 保管のポイント | 具体的な方法と理由 |
| 1. 保管袋 | 購入時に付属している「ストレージバッグ」を使用します。 |
| 無い場合は、大きめの洗濯ネットや、使わなくなった布団カバーなどで代用します。 | |
| 2. 保管場所 | 湿気が少なく、風通しの良い冷暗所で保管します。 |
| 車のトランクや物置など、高温多湿になる場所は避けてください。 | |
| 3. 保管状態 | ストレージバッグに入れ、ロフトが潰れないように置きます。 |
洗濯の頻度とQ&A
最後に、寝袋のメンテナンスに関するよくある疑問にお答えします。
Q. 洗濯の頻度はどのくらい?
A. 寝袋は頻繁に洗いすぎると、中綿や生地を傷める原因になります。
洗濯のタイミングは、汚れ具合や使用状況に応じて判断します。
| 洗濯のタイミング目安 |
| – シーズンオフで長期保管に入る前 |
| – 目立つ汚れ(食べこぼしなど)がついてしまった時 |
| – 汗や皮脂の臭いが気になり始めた時 |
| – 使用回数が 30〜50 泊程度に達した時 |
使用後は、毎回しっかり乾燥させ、インナーシーツを使うことで、洗濯の頻度を大幅に減らすことができます。
Q. 部分的な汚れはどうする?
A. 全体を洗うほどではない汚れは、「部分洗い」で対応します。
ダウン専用洗剤または中性洗剤を薄めた液をタオルにつけ、汚れた部分を軽く叩くようにして拭き取ります。
その後、洗剤が残らないよう、水で濡らしたタオルで再度拭き取ります。
Q. 撥水性は復活する?
A. 洗濯で表面の皮脂汚れが落ちることで、初期の撥水性が戻る場合があります。
さらに、ダウン寝袋を乾燥機で(低温)熱処理することで、撥水基が立ち上がり、機能が回復することが期待できます [6]。
撥水性が落ちてきたと感じたら、洗濯後に撥水スプレー(寝袋用)を適切に使用するのも一つの方法です。
Q. クリーニング店に出すのはアリ?
A. ダウン製品専門のクリーニング店に依頼するのは非常に良い選択です。
特に高価なダウン寝袋や、洗濯表示が「家庭洗濯不可」の場合は、プロに任せるのが最も安全です。
まとめ
寝袋の洗濯は、一見難しそうに思えます。
しかし、素材(ダウンと化繊)の違いを理解し、正しい手順を踏めば、自宅やコインランドリーでも十分にメンテナンスが可能です。
洗濯の最大のポイントは「洗剤選び」と「洗い方」、そして最も重要なのが「乾燥」です。
特にダウン寝袋は、テニスボールを使った乾燥機での完全乾燥が、ロフトを回復させる鍵となります。
正しいメンテナンスで寝袋を清潔に保ち、次のキャンプでもふかふかの寝袋で快適な夜をお過ごしください。
脚注
[1] mont-bell「ダウンクリーナー」(ダウン専用洗剤の例)
[2] NANGA「SLEEPING BAG / DOWN WEAR の洗い方」(ドラム式洗濯機の推奨)
[3] ISUKA「寝袋・シュラフの専門メーカー」(メンテナンス・保管方法)
[4] YAMAHACK「寝袋って洗濯機で洗えるの?」(テニスボールの使用)
[5] Coleman「スリーピングバッグ(化繊)の洗い方」(タンブラー乾燥の禁止)
[6] Grangers「ダウン製品のお手入れ方法」(熱による撥水性の回復)










