はじめに:日本で唯一無二の体験ができる場所
静岡県榛原郡川根本町。
南アルプスの麓、大井川がエメラルドグリーンの水をたたえる奥大井エリアに、そのキャンプ場はあります。
「アプトいちしろキャンプ場」です。
このキャンプ場の最大の魅力は、他のどのキャンプ場でも味わえない、唯一無二の体験にあります。
それは、日本で唯一現役で稼働する「アプト式列車」が、目の前の鉄橋を渡っていく姿です。
さらに、目の前には雄大な長島ダムがそびえ立ち、サイトからは美しいダム湖を望むことができます。
人気アニメ『ゆるキャン△』でも取り上げられたことで、その知名度は一気に高まりました。
この記事では、そんなアプトいちしろキャンプ場の基本情報から、設備の詳細、周辺の観光情報、そして利用時の注意点まで、徹底的に解説します。
専門的な知識がなくても理解できるよう、多くの表やリストを用いて、その魅力を余すところなくお届けします。
アプトいちしろキャンプ場とは? 基本情報をチェック
まずは、アプトいちしろキャンプ場がどのような場所なのか、基本的な情報を確認しましょう。
山々に囲まれた自然豊かな立地でありながら、設備が整っているのが特徴です。
キャンプ場の基本スペック
キャンプ場の概要を以下の表にまとめました。
特に注目すべきは、サイトの目の前を大井川鐵道井川線(南アルプスあぷとライン)が走るという、そのロケーションです。
| 項目 | 詳細 |
| 名称 | アプトいちしろキャンプ場 |
| 所在地 | 〒428-0401 静岡県榛原郡川根本町梅地 3-19 |
| 電話番号 | 080-2636-6128 (問い合わせ専用。予約はネット推奨) |
| 営業期間 | 通年営業(年末年始などを除く) |
| チェックイン | 13:00~17:00 |
| チェックアウト | 8:00~11:00 |
| 立地 | 川沿い、ダム湖畔、山間 |
| 主なサイト | 芝サイト、土サイト(区画サイト) |
| 車両乗入 | 可(サイト横付け可能) |
| ペット | 可(リード必須、ルール厳守) |
キャンプ場のフロア構成
アプトいちしろキャンプ場は、大きく分けて 2 つのフロアで構成されています 。


この構造を理解しておくと、当日の移動がスムーズです。
- 管理用フロア
- 管理棟(売店)
- トイレ
- シャワールーム
- 炊事場
- 駐車場
- (標高が高い位置にあります)
- サイトフロア
- キャンプサイト(芝・土)
- (管理用フロアから階段や坂道を下った先に広がります)
この高低差がある構造が、サイトフロアからの見晴らしの良さにも繋がっています。
最大の魅力 (1):日本唯一!「アプト式列車」を間近に
このキャンプ場を語る上で、絶対に外せないのが「アプト式列車」の存在です。
キャンプをしながら、これほど間近に珍しい列車を鑑賞できる場所は、日本中探してもここだけでしょう。

「アプト式」とは何か?
「アプト式」とは、急な坂道を安全に登り降りするための鉄道技術の一つです。
- 2 本のレールの真ん中に、「ラックレール」と呼ばれる歯車状のレールを敷設します。
- 車両側に「ピニオン」という歯車を取り付けます。
- この 2 つの歯車を噛み合わせることで、急勾配でも滑らずに走行できます。

大井川鐵道井川線は、長島ダムの建設に伴いルートが変更されました。
その結果、「アプトいちしろ駅」と「長島ダム駅」の間に、日本の鉄道で最も急な 90 パーミル(1000m 進むと 90m 登る)という勾配が生まれました。
この「アプト区間」を走行するため、日本で唯一、アプト式が採用されています。
魅力 1:テントの目の前を走る列車を「見る」

キャンプサイト(特に川側)は、このアプト式列車が走る鉄橋の目の前です。
テントの設営を終えて椅子に座れば、まるで自分のためだけに列車が走っているかのような特等席が完成します。
- ゴトゴトという走行音。
- 独特の警笛。
- ゆっくりと鉄橋を渡るカラフルな車両。
この非日常的な風景こそが、アプトいちしろキャンプ場の醍醐味です。
魅力 2:連結・切り離し作業を「見学する」

アプト区間の前後にある「アプトいちしろ駅」と「長島ダム駅」では、アプト式専用の電気機関車(ED90 型)を連結・切り離しする作業が発生します。
キャンプ場からアプトいちしろ駅までは徒歩約 5 分。
この貴重な作業風景を間近で見学できるのも、宿泊者ならではの特権です。
| 駅名 | 作業内容 | 特徴 |
| アプトいちしろ駅 | (千頭方面へ)機関車の切り離し | 坂道を下り終えた列車から機関車を外す作業が見られます。 |
| 長島ダム駅 | (井川方面へ)機関車の連結 | これから急勾配を登るため、後部に機関車を連結します。 |
魅力 3:キャンプ場から「乗る」

もちろん、列車は見るだけではありません。
キャンプ場を拠点に、実際にアプト式列車に乗車する旅も楽しめます。
アプトいちしろ駅から乗車し、奥大井の絶景スポットへ出かけるプランもおすすめです。
南アルプスあぷとライン 簡易時刻表(参考)
運行本数は多くないため、事前に時刻表の確認が必須です。
以下はあくまで一例です。最新の時刻表は公式サイトでご確認ください。
| 方面 | アプトいちしろ駅 発(目安) | 主要な行き先 |
| 下り(井川方面) | 09:30 頃 | 長島ダム、奥大井湖上、接岨峡温泉 |
| 下り(井川方面) | 12:35 頃 | 長島ダム、奥大井湖上、接岨峡温泉 |
| 下り(井川方面) | 13:50 頃 | 長島ダム、奥大井湖上、接岨峡温泉 |
| 上り(千頭方面) | 11:20 頃 | 千頭 |
| 上り(千頭方面) | 13:50 頃 | 千頭 |
| 上り(千頭方面) | 15:50 頃 | 千頭 |
最大の魅力 (2):息をのむ「長島ダム」と大井川の絶景
アプト式列車と並ぶもう一つの主役が、サイトの目の前に広がる雄大な「長島ダム」の景観です。
ダム湖畔の圧倒的な開放感
アプトいちしろキャンプ場は、長島ダムによって形成された「接岨湖(せっそこ)」のほとりに位置しています。
サイトから見上げれば、巨大なダムの堤体(ていたい)が迫り、見下ろせばエメラルドグリーンに輝く湖面が広がります。
- 朝は、湖面から立ち上る川霧が幻想的な風景を作り出します。
- 昼は、太陽の光を受けて輝く湖の色と、空の青さのコントラストが楽しめます。
- 夜は、ライトアップされたダムが暗闇に浮かび上がります(※ライトアップは時期による可能性があります)。
ダムの放流と「ミステリートンネル」

長島ダムは治水や利水のためのダムであり、タイミングによっては迫力ある放流を見ることができます。
夜間はダムから聞こえる水の音が、自然の BGM となります。
また、キャンプ場の近くには、旧国鉄時代の廃線跡を利用した遊歩道があります。
その中にある「ミステリートンネル」は、照明が一切ない真っ暗なトンネルで、懐中電灯必須の探検スポットとなっています。


景観の魅力まとめ
| 時間帯 | 景観のポイント | おすすめの過ごし方 |
| 早朝 | ダム湖から昇る川霧、静寂 | 温かいコーヒーを飲みながら霧が晴れるのを待つ |
| 日中 | エメラルドグリーンの湖面、青空 | サイトで読書、またはアプト式列車に乗車 |
| 夕方 | 山に沈む夕日、ダムのシルエット | 焚き火の準備をしながら空色の変化を楽しむ |
| 夜間 | 満点の星空、ダムの放流音 | 静かに星空を眺める(周辺に灯りが少ない) |
徹底解剖!キャンプサイトの詳細
アプトいちしろキャンプ場のサイトは、大きく「芝サイト」と「土サイト(川側・山側)」に分かれています。
それぞれの特徴を理解し、自分のスタイルに合った場所を選びましょう。
サイトの種類と特徴比較
| 項目 | 芝サイト | 土サイト(川側) | 土サイト(山側) |
| 地面 | 芝生(手入れされている) | 土、砂利 | 土、砂利 |
| 景観 | 比較的良好 | 最高(列車・ダムが目の前) | サイトによる(山側) |
| 広さ | 区画による | 区画による | 区画による |
| ペグ | 通常のペグで可 | やや硬め(鍛造ペグ推奨) | やや硬め(鍛造ペグ推奨) |
| 人気 | ファミリーに人気 | 一番人気 | 比較的空いている傾向 |
| 特徴 | 管理棟や炊事場に近い | 眺望を最優先するならここ | 静かに過ごしたい人向け |
サイト選びのポイント
- 絶景と鉄道を最優先するなら
- 迷わず「土サイト(川側)」を指定しましょう。
- 特に A1~A5 サイトあたりが人気です。
- 快適さや利便性を重視するなら
- 「芝サイト」がおすすめです。
- 管理棟やトイレ、炊事場へのアクセスが良く、地面も快適です。
- 水はけについて
- 芝サイト、土サイトともに水はけは平均的ですが、雨天時は土サイトの方がぬかるみやすい可能性があります。
徹底解説!充実の設備ガイド
奥大井の秘境にありながら、アプトいちしろキャンプ場の設備は非常に清潔で、快適に過ごすための配慮が行き届いています。
特に水回りの清潔さは特筆すべき点です。
管理棟(売店)
チェックイン・チェックアウトを行う場所です。
管理用フロアに位置し、キャンプに必要な消耗品も販売されています。
管理棟 取扱品目(一例)
| カテゴリ | 品目 | 備考 |
| 燃料 | 薪(針葉樹・広葉樹) | |
| 炭 | ||
| OD 缶、CB 缶 | ||
| 飲料 | ビール、チューハイ | |
| ソフトドリンク(自動販売機あり) | ||
| 食品 | 簡単なスナック類、氷 | |
| 釣り餌 | ||
| その他 | 着火剤、網など |
トイレ
キャンプ場選びで最も重要な要素の一つであるトイレは、非常に高い評価を得ています。
- 管理用フロアに設置されています。
- 全ての個室がウォシュレット(洗浄器付)完備です。
- 清掃が非常に行き届いており、清潔感が保たれています。
シャワールーム
管理棟の横に、男女別のコインシャワーが設置されています。
| 項目 | 詳細 |
| 料金 | 100 円 / 3 分 |
| 利用時間 | 24 時間利用可能(要確認) |
| 設備 | コインロッカー、脱衣スペース |
| 特記事項 | 水圧はやや弱めとの口コミあり |
| シャンプー・石鹸は持参必須 |
炊事場
炊事場も管理用フロアにあります。
- シンクの数が多く、混雑時も比較的使いやすいです。
- 清潔に管理されています。
- お湯は出ません。 冬季や油汚れを落とす際は注意が必要です。
- 洗濯機も設置されています(有料)。
レンタル品
テントや寝具、ランタンなど、キャンプ用品一式のレンタルが可能です。
機材を持っていない初心者の方や、手ぶらでキャンプを楽しみたい方にも対応しています。
主なレンタル品(一例)
| 品目 | 料金(目安) |
| テント(ドーム型) | 3,000 円~ |
| タープ | 2,000 円~ |
| 寝袋(シュラフ) | 500 円~ |
| テーブル | 1,000 円~ |
| チェア | 500 円~ |
| BBQ コンロ | 1,500 円~ |
※料金や品揃えは変更される場合があります。詳細は公式サイトをご確認ください。
奥大井を満喫!周辺のおすすめ観光スポット
キャンプ場を拠点に、奥大井エリアの魅力的なスポットへ足を運ぶのもおすすめです。
アプト式列車を利用した観光は、特に人気があります。
1. 長島ダムふれあい館

キャンプ場から徒歩圏内にある施設です。
- 長島ダムの役割や、周辺地域の情報を学べます。
- パネルや映像展示が中心で、入場は無料です。
- キャンプの合間に、気軽に立ち寄れるスポットです。
| 施設名 | 長島ダムふれあい館 |
| キャンプ場から | 徒歩圏内(約 10 分) |
| 営業時間(目安) | 9:30~16:30 |
| 料金 | 無料 |
| 見どころ | ダムの構造解説、周辺の自然紹介 |
2. 奥大井湖上駅(あぷとライン)

「秘境駅」として全国的に有名な駅です。
- アプトいちしろ駅からアプト式列車に乗って行くことができます(約 20 分)。
- ダム湖(接岨湖)の上に突き出すように作られた駅ホームが特徴です。
- 駅の両側は「奥大井レインボーブリッジ」という鉄橋になっています。
| スポット名 | 奥大井湖上駅 |
| アクセス | アプトいちしろ駅より井川方面へ 3 駅 |
| 所要時間 | 片道約 20 分 |
| 見どころ | 湖上の駅ホーム、レインボーブリッジウォーク |
| 注意点 | 駅周辺には自販機と休憩所(レイクコテージ奥大井)以外、店舗はありません。 |
3. 寸又峡(すまたきょう) 夢の吊橋

奥大井エリアで最も有名な観光地の一つです。
- エメラルドグリーンの湖面にかかる、長さ 90m、高さ 8m の吊り橋です。
- 一度に渡れる人数が制限されており、スリル満点です。
- 紅葉シーズンは東海随一の美しさと言われます 。
| スポット名 | 寸又峡 夢の吊橋 |
| アクセス | キャンプ場から車で約 40~50 分(千頭駅方面へ) |
| 見どころ | 絶景の吊り橋(一方通行)、寸又峡プロムナード(遊歩道) |
| 注意点 | 紅葉シーズンや連休は、吊り橋を渡るために数時間の待ち時間が発生することもあります。 |
利用プランと料金・予約方法
アプトいちしろキャンプ場は、ソロからファミリーまで幅広く対応した料金体系となっています。
予約はインターネット経由が基本です。
サイト利用料金(目安)
料金はシーズン(オン・ハイ・トップ)によって変動します。
以下は標準的な料金の目安です。
| 項目 | 料金(1 泊) | 備考 |
| 入場料(大人) | 1,000 円 | 中学生以上 |
| 入場料(小人) | 500 円 | 小学生 |
| 入場料(幼児) | 200 円 | 3 歳以上 |
| サイト利用料(芝) | 3,000 円~ | 車 1 台、テント 1 張、タープ 1 張 |
| サイト利用料(土) | 3,000 円~ | 同上 |
| ソロキャンプ(芝) | 1,500 円~ | 入場料+サイト料(土日祝除く平日) |
| ソロキャンプ(土) | 1,500 円~ | 入場料+サイト料(土日祝除く平日) |
| デイキャンプ | 大人 500 円、小人 300 円 | 11:00~16:00 (※要事前確認) |
※上記はあくまで目安です。最新の正確な料金は予約サイトで必ず確認してください。
予約方法
予約は、キャンプ場検索・予約サイト(「なっぷ」など)または公式サイト経由のインターネット予約が基本です [4]。
- 予約開始日: 3 ヶ月前の月の 1 日から 。
- 電話予約: 原則としてインターネット受付のみ。団体利用などを除く電話での予約は行っていません 。
- キャンセル: 予約時と同様に、インターネットから手続きが必要です。キャンセルポリシーを必ず確認してください。
アクセスと利用時の重要な注意点
アプトいちしろキャンプ場へのアクセスは、その秘境感ゆえにいくつかの注意点があります。
特に「買い出し」は最重要項目です。
アクセス方法(車)
東京方面、名古屋方面ともに、新東名高速道路の「島田金谷 IC」または「静岡 SA スマート IC」が最寄りの IC となります。
- 新東名の金谷・島田IC下車、大井川沿いに約55km上流へ
長島ダムの直下(1時間20分程度) - 新東名の静岡SA、スマートICより、国道362号線を千頭まで
その後接岨、井川方面に向かって10分 長島ダムの直下(1時間10分程度)
※ナビで「川根本町長島ダム」と入力
アクセス方法(公共交通機関)
鉄道ファンなら、大井川鐵道を乗り継いで行くルートも格別です。
- JR 東海道本線「金谷駅」で大井川鐵道本線に乗り換え。
- 「千頭駅」で井川線(南アルプスあぷとライン)に乗り換え。
- 「アプトいちしろ駅」で下車、徒歩約 5 分。
【最重要】買い出しに関する注意点
アプトいちしろキャンプ場を利用する上で、最も注意すべき点です。
キャンプ場の周辺(車で 30 分圏内)には、食材を豊富に揃えられるスーパーマーケットやコンビニエンスストアが一切ありません。
- 最後の買い出しポイント:
- 千頭駅周辺にも小規模な商店はありますが、品揃えは限られます。
- 確実に食材を調達するには、高速道路を降りた後の島田市・金谷地区、または途中の「道の駅 川根温泉」などで済ませる必要があります。
- 推奨する行動:
- キャンプ場で必要な食材、飲料は、すべて事前に購入してから向かうこと。
- 「現地で調達しよう」という考えは非常に危険です。
- 忘れ物をした場合:
- 管理棟の売店で対応できるもの(薪、炭、ガス缶など)以外は、入手困難です。
- 最寄りのスーパーまで往復 1 時間半以上かかることを覚悟してください 。
事前準備チェックリスト
| 準備項目 | チェック | 備考 |
| 食材(全日程分) | □ | 肉、野菜、米、調味料など |
| 飲料(全日程分) | □ | 水、お茶、アルコール類 |
| 燃料 | □ | 薪、炭(管理棟でも購入可) |
| ガス缶(CB/OD) | □ | (管理棟でも購入可) |
| 氷 | □ | (管理棟でも購入可) |
| 懐中電灯 | □ | ミステリートンネル探検にも必須 |
| 虫よけ | □ | 川沿いのためブヨなどに注意 |
| 防寒着 | □ | 山間部は朝晩冷え込みます |
まとめ:ここでしか味わえない感動を体験しよう
アプトいちしろキャンプ場は、単に自然の中で過ごすだけの場所ではありません。
- 日本唯一のアプト式列車が奏でる音と風景。
- 長島ダムが作り出す雄大で幻想的な景観。
- 清潔に管理された快適な設備。
これらが融合した、まさに「唯一無二」のキャンプ場です。
もちろん、アクセスが容易ではなく、買い出しに細心の注意が必要という側面もあります。
しかし、その「不便さ」すらも、奥大井という秘境を訪れる醍醐味の一部と言えるでしょう。
事前の準備を万全にして、アプトいちしろキャンプ場でしか味わえない、特別な時間と感動を体験してみてはいかがでしょうか。


