なぜキャンプのコーヒーは格別なのか?
キャンプの朝、冷涼な空気の中で飲む一杯のコーヒー。
なぜ、あのコーヒーは自宅で飲むものより格段に美味しく感じるのでしょうか。
それは「体験」が加わるからです。
鳥のさえずり、川のせせらぎ、焚き火のはぜる音。
五感をフル活用する非日常空間が、コーヒーの味を何倍にも引き立てます。
また、豆を挽く手間や、お湯をゆっくり注ぐ時間そのものが、贅沢なアクティビティとなります。
この記事では、その格別な一杯を「なんとなく」ではなく、「狙って」淹れるための技術を紹介します。
コーヒー淹れ方のスタイルを選ぶ

キャンプでコーヒーを淹れる方法は一つではありません。
手軽さ、味の好み、持っていく道具によって、最適なスタイルは異なります。
まずは、代表的な淹れ方の種類と特徴を比較してみましょう。
表:キャンプコーヒー淹れ方スタイルの比較
| 淹れ方スタイル | 味の特徴 | 必要な主な道具 | 手軽さ(5 段階) | おすすめのシーン |
| ペーパードリップ | クリアで雑味が少ない | ドリッパー、フィルター、ケトル | ☆☆☆☆ | 定番。豆本来の味を楽しみたい時 |
| フレンチプレス | オイル分まで抽出され、濃厚 | フレンチプレス本体 | ☆☆☆☆ | 豆の個性をダイレクトに味わいたい時 |
| パーコレーター | ワイルドで濃いめ | パーコレーター本体 | ☆☆☆☆ | 焚き火と相性抜群。雰囲気重視の時 |
| マキネッタ | 濃厚なエスプレッソ風 | マキネッタ本体 | ☆☆☆ | ラテなどアレンジしたい時 |
| インスタント | 手軽で安定した味 | カップ、お湯 | ☆☆☆☆☆ | とにかく手軽に済ませたい時 |
| ドリップバッグ | 手軽にドリップの味 | カップ、お湯 | ☆☆☆☆☆ | 荷物を最小限にしたい時 |
本記事では、基本となる「ペーパードリップ」を中心に、キャンプらしい「パーコレーター」「フレンチプレス」の淹れ方も詳しく解説します。
ステップ 1:基本の道具を揃える
美味しいコーヒーを淹れるためには、適切な道具選びが最初の関門です。
キャンプならではの視点(携帯性、耐久性)も加えて選びましょう。
必須の道具リスト

まずは、これがないと始まらない基本の道具です。
- お湯を沸かす器具(ケトル、クッカー)
- ドリッパー(抽出器具)
- ペーパーフィルター(または金属フィルター)
- コーヒー豆(または粉)
- マグカップ
- 水
あると格段にレベルアップする道具

より本格的な味を目指すなら、以下の道具の導入を検討しましょう。
- コーヒーミル(豆挽き器)
- 豆は挽いた瞬間から香りが飛び始めます。
- 現地で挽くことで、格段に香り高いコーヒーを楽しめます。
- ドリップポット(細口のケトル)
- お湯を細く、狙った場所に注ぐために必須です。
- 味のコントロール性が飛躍的に向上します。
- 温度計
- お湯の温度は味を決定づける重要な要素です。
- 90 ℃ 前後を狙うために使用します。
- スケール(はかり)
- 豆の量とお湯の量を正確に測ることで、毎回安定した味を再現できます。
キャンプ用コーヒー道具の選び方
キャンプギアとして道具を選ぶ際は、以下のポイントを重視します。
表:キャンプ用コーヒー道具 選択のポイント
| 観点 | 重視するポイント | 具体例 |
| 携帯性 | コンパクトになるか | – 折りたたみ式ドリッパー – スタッキング(重ねて収納)できる器具 |
| 耐久性 | 運搬や落下に強いか | – ステンレス製やチタン製の器具 – ガラス製を避け、金属や樹脂製を選ぶ |
| 軽量性 | 持ち運びが苦にならないか | – チタン製マグカップ – 軽量な樹脂製ドリッパー |
| 熱源 | キャンプの火に対応できるか | – 直火 OK のケトルやパーコレーター – 焚き火でも使える五徳 |
道具の材質比較
特にケトルやカップで使われる金属には、それぞれ特徴があります。
表:主要マテリアル(材質)の比較
| 材質 | 特徴 | メリット | デメリット |
| ステンレス | 最も一般的 | – 耐久性が高い – 錆びにくい – 比較的安価 | – チタンより重い – 熱伝導率は中程度 |
| チタン | 軽量・高耐久 | – 圧倒的に軽い – 錆びない – 金属臭が少ない | – 価格が高い – 熱伝導率が低く、直火で焦げ付きやすい |
| アルミ | 軽量・高熱伝導 | – 熱伝導率が高く、お湯が早く沸く – 非常に軽い – 安価 | – 傷や凹みに弱い – 酸やアルカリに弱い |
| ホーロー | 金属の表面加工 | – 匂いが移りにくい – 保温性が高い – デザイン性が高い | – 衝撃でコーティングが割れる – 重い |
ステップ 2:コーヒー豆の選び方と準備
道具が揃ったら、主役であるコーヒー豆を準備します。
「豆」で買うか、「粉」で買うか

コーヒーは「豆のまま」で購入し、淹れる直前に「ミル」で挽くのが理想です。
- 豆のまま
- メリット:香りが豊かで、酸化しにくい。挽き方を調整できる。
- デメリット:ミルが必要になる。
- 粉(挽いた状態)
- メリット:ミルが不要で手軽。
- デメリット:空気に触れる面積が広く、酸化が早い(=風味が落ちやすい)。
キャンプでは手軽さも重要ですが、ぜひ「豆のまま」を持参し、現地で挽く体験をおすすめします。
豆の「挽き方」が味を変える
豆の挽き方(粒度)は、使用する器具と目指す味によって変える必要があります。
表:コーヒー豆の挽き方(粒度)と特徴
| 粒度 | 見た目の目安 | 適した淹れ方 | 味の特徴 |
| 粗挽き | ザラメ糖くらい | – パーコレーター – フレンチプレス | – 雑味が出にくく、スッキリ – 抽出時間が長い器具向き |
| 中挽き | グラニュー糖くらい | – ペーパードリップ(標準) – サイフォン | – バランスが良く、標準的な味 |
| 中細挽き | 中挽きと細挽きの中間 | – ペーパードリップ(濃いめ) | – コクと苦味が出やすい |
| 細挽き | 上白糖くらい | – マキネッタ(直火式) – 水出しコーヒー | – 成分が強く抽出される – 苦味が強く、濃厚 |
| 極細挽き | 小麦粉のよう | – エスプレッソマシン | – (キャンプでは稀) |
キャンプへの豆の持ち運び方
豆の鮮度を保つ(=酸化させない)ことが重要です。
- 密閉容器(キャニスター)に入れる
- 光を通さず、密閉性の高い専用容器がベストです。
- 必要な分だけ小分けにする
- 1 回のキャンプで使う分だけを持っていきます。
- ジッパー付き保存袋も活用
- 専用容器がない場合、できるだけ空気を抜いて密閉します。
ステップ 3:【基本】ペーパードリップの淹れ方

最もスタンダードで、味のコントロールがしやすいペーパードリップの手順を詳細に解説します。
これができれば、コーヒーの基本はマスターしたも同然です。
準備(1 人分 約 150 ml)
- コーヒー豆(中挽き):12〜15 g
- お湯:約 180 ml(豆を蒸らしたり、器具を温めたりする分も含む)
- お湯の温度:90〜95 ℃(沸騰したお湯を 1 分ほど落ち着かせた温度)
基本の手順リスト
- お湯を沸かす
- ケトルやクッカーでお湯を沸かします。
- 器具の予熱(重要)
- ドリッパーとサーバー(または直接マグカップ)に少量のお湯を注ぎ、温めます。
- これにより、抽出中にお湯の温度が下がるのを防ぎます。
- 温めたお湯は捨てます。
- フィルターをセットする
- ペーパーフィルターの接着部分を折り、ドリッパーに密着させます。
- (好みにより)フィルターを湯通しして、紙の匂いを取り除く場合もあります。
- 粉をセットする
- 挽いたコーヒー粉をフィルターに入れ、ドリッパーを軽く振って粉の表面を平らにならします。
- 第 1 投:蒸らし(最重要)
- 粉の中心に、100 円玉程度の大きさで「の」の字を描くように、粉全体が湿る程度のお湯をそっと注ぎます。
- フィルターの縁には直接お湯をかけないようにします。
- 注いだら、30 秒〜 40 秒ほど待ちます。
- 粉がハンバーグのように膨らむのが、新鮮な豆の証拠です。
- 第 2 投以降:抽出
- 蒸らしが終わったら、中心から「の」の字を描くように、数回に分けてお湯を注ぎます。
- 泡(アク)が縁に溜まるので、中心の泡が沈みきる前に次のお湯を注ぎます。
- お湯は、フィルターの縁に直接かけず、壁を作らないように注ぎます。
- 抽出完了
- 必要な量(約 150 ml)が抽出されたら、お湯が完全に落ちきる前にドリッパーを外します。
- 最後まで落とし切ると、雑味が出やすくなります。
- 全体の抽出時間は、蒸らしを含めて 3 分程度が目安です。
美味しく淹れるための「湯温」と「味」の関係
お湯の温度は、コーヒーの味を大きく左右します。
表:お湯の温度が味に与える影響
| 温度帯 | 味の特徴 | 状態 |
| 95 ℃ 以上(高温) | 苦味が強く、シャープな味 | – 苦味成分(カフェインなど)が強く抽出される – 酸味は控えめになる |
| 90〜95 ℃(適温) | バランスが良い | – 苦味、酸味、甘味のバランスが取れる – 多くの豆で推奨される温度 |
| 90 ℃ 未満(低温) | 酸味が際立ち、マイルドな味 | – 苦味成分が抑えられ、酸味が出やすい – 浅煎りの豆の個性を出す際に使うことも |
キャンプでは外気温が低いため、お湯が冷めやすいです。
自宅で淹れる時より、やや高めの温度(95 ℃ 近い)で始めると、抽出中に適温を保ちやすくなります。
ステップ 4:【応用】キャンプならではの淹れ方
ペーパードリップをマスターしたら、キャンプの雰囲気をより一層盛り上げる、他の淹れ方にも挑戦してみましょう。
① フレンチプレス(豆の味をダイレクトに)

金属フィルターで豆の油分(コーヒーオイル)ごと抽出するため、豆本来の味と香りをダイレクトに楽しめます。
表:フレンチプレス 淹れ方ガイド
| ステップ | 所要時間 | やること |
| 1. 準備 | – | – 器具とカップを予熱する – 豆を粗挽きにする |
| 2. 粉とお湯を入れる | 30 秒 | – プレス本体に粉を入れる – お湯(90〜95 ℃)を勢いよく半分注ぎ、30 秒蒸らす – 残りのお湯を注ぎ、軽くかき混ぜる |
| 3. 抽出(待つ) | 4 分 | – プランジャー(蓋)をセットし、4 分間待つ |
| 4. プレス | 10 秒 | – 4 分経ったら、プランジャーをゆっくりと下まで押し下げる |
| 5. 完成 | – | – すぐにカップに注ぎ切る(入れたままにすると苦くなる) |
② パーコレーター(焚き火と楽しむワイルドな味)

焚き火や直火にかけられる、キャンプらしい器具の代表格です。
お湯を循環させて煮出すため、ワイルドで濃いめのコーヒーが淹れられます。

パーコレーターの注意点
- 豆は必ず粗挽きを使用します。(細挽きだと粉がフィルターを通り抜け、粉っぽいコーヒーになります)
- 煮出しすぎると、えぐみや雑味が強く出ます。
表:パーコレーター 淹れ方ガイド
| ステップ | やること | コツ・注意点 |
| 1. 水を入れる | – パーコレーター本体に水を入れます | – 水の量はカップの目盛りなどに合わせます |
| 2. 粉をセット | – バスケット(粉を入れるカゴ)に粗挽きの粉を入れます | – 粉を詰めすぎないようにします |
| 3. 火にかける | – バスケットとパイプを本体にセットし、蓋をして火にかけます | – まずは中火〜強火で沸騰させます |
| 4. 沸騰・循環 | – お湯が沸騰すると、お湯がパイプを通り、蓋の透明ノブから見えるようになります | – 沸騰したら、すぐに弱火にします |
| 5. 抽出(煮出し) | – 弱火で 3〜5 分程度、循環させます | – ノブから見えるお湯の色で濃さを判断します – 強火のまま煮立てると、雑味の塊になります |
| 6. 完成 | – 火から下ろし、バスケットを取り出して完成です | – 火傷に十分注意してください |
ステップ 5:美味しさを格上げする「極意」
同じ道具と豆を使っても、少しのコツで味は劇的に変わります。
上級者が実践している「極意」をリストアップしました。
水にこだわる
- コーヒーの約 99 % は水です。
- キャンプ場の水も良いですが、水道水のカルキ臭が気になる場合は、持参したミネラルウォーター(軟水)を使うと、豆の個性が素直に出ます。
- 硬水(ミネラル分が多い水)は、苦味が強く出やすい傾向があります。
淹れる直前に豆を挽く
- これは何度でも強調したい、最も重要な「極意」です。
- コーヒーミルへの初期投資は、どの高級な豆を買うよりも味へのインパクトが大きいです。
器具の予熱を徹底する
- 特に気温の低い冬キャンプでは必須です。
- カップ、ドリッパー、サーバーなど、コーヒーが触れるもの全てを温めておきます。
- 冷たい器具に触れると、コーヒーの温度は一気に下がり、酸味だけが際立った味になりがちです。
レシピを記録する
- 「なんとなく」淹れるのをやめ、「レシピ」で淹れることが上達の近道です。
表:コーヒーレシピ 記録項目
| 項目 | 単位 | 例 |
| 豆の量 | g | 15 g |
| お湯の温度 | ℃ | 92 ℃ |
| 豆の挽き方 | 目盛り | カリタミル 3 番 |
| 蒸らし時間 | 秒 | 40 秒 |
| 総抽出時間 | 分秒 | 3 分 00 秒 |
| 総湯量 | ml | 180 ml |
| 飲んだ感想 | テキスト | 「苦味が少し強かった。次は湯温を 90 ℃ にしてみよう」 |
ステップ 6:スマートな後片付けと環境配慮
キャンプでは、後片付けのしやすさも重要なポイントです。
コーヒーの「カス」の処理
- 絶対に炊事場や自然に捨ててはいけません。
- コーヒーのカス(出がらし)は、環境(特に水質)に影響を与えます。
推奨される処理方法
- フィルターごと捨てる
- ペーパーフィルターの場合、フィルターごと燃えるゴミとして持ち帰ります。
- 乾燥させて持ち帰る
- フレンチプレスやパーコレーターのカスは、水気を切り、ビニール袋などに入れて持ち帰ります。
- 新聞紙やキッチンペーパーに広げて乾かすと、匂いや重さを軽減できます。
- 専用の処理袋を使う
- 市販の「コーヒーかす処理袋」(水分を吸って固めるタイプ)も便利です。
道具の洗浄
- キャンプ場のルールに従い、指定された炊事場で洗浄します。
- 洗剤の使用が禁止されている場合もあるため、事前に確認が必要です。
- 油分(コーヒーオイル)が多いため、お湯で洗うか、専用のブラシ(フレンチプレスなど)を持参すると便利です。
- ティッシュやキッチンペーパーで油分を拭き取ってから洗うと、環境負荷を減らせます。
まとめ:あなただけの最高の一杯を見つけよう

キャンプで淹れるコーヒーは、手間がかかるからこそ、格別な時間を提供してくれます。
- 最初は基本のペーパードリップから。
- 慣れてきたら、豆の挽き方や湯温を変えてみる。
- さらに、パーコレーターやフレンチプレスで、キャンプの雰囲気に合わせた淹れ方に挑戦する。
この記事で紹介した多くの表やリストは、あなたの「コーヒーレシピ帳」の基礎となるはずです。
ぜひ、試行錯誤を楽しみながら、大自然の中で「あなただけの一杯」を見つけてください。
[1] JTF 日本語標準スタイルガイド (v3.0) に準拠し、一般的な表記ルール(半角数字+全角単位など)を適用しました。
[2] コーヒーの抽出理論に関する情報は、一般的なコーヒー専門書および複数のオンラインリソース(例:UCC、KeyCoffee、ドトールコーヒーなどの公開情報)から得られた標準的な知識に基づいています。


